▼『食べる』ドリアン助川

食べる ―七通の手紙 <電子版>

 宮沢賢治ポル・ポト青島幸男ダーウィンなど7人の人達への手紙の型式をとって「食べること」,そして「生きること」の意味を問う,渾身の書き下ろしエッセイ――.

 と人物,その繋がりは宇宙の調和を讃える交響曲のようだ.ロックバンド「叫ぶ詩人の会」の元リーダードリアン助川――明川哲也と改名――,ネスカフェのCMの落ち着いた語りが思い出される.本書は,大虐殺者ポル・ポト,旅のプリマドンナ兼高かおる東京都知事青島幸男,進化論者ダーウィン茅ヶ崎で出会ったギンズバーグ似の釣り人まで,多彩な人物の食との交差点に触れる.

 言葉の復権,世界の融和,全てを叫ぶようなエネルギーを込めて著者は語りかける.彼は言葉の力を信じ,「食材」という結びつきを通じて世界の美と痛みを伝えた.その切なる思索が黙考として現れる一方,彼の文章は激情と調和を共鳴させる.筆が滑ることもあるが,その滑りこそが個性であり,その熱情を証明するものだ.著者の感性は多様な経験から「真実」を引き出す探求心に満ちており,その中の重苦しさや痛みが読者に共感を呼び起こす.

 七つの手紙というよりも,この文章は韜晦のない七つの主張と言えるだろう.骨太で,しかし同時に芯は強く,その言葉は熱く響く.世界の森羅万象を食と共にシャウトし,その声は読者の心を引き付ける.七つの食材,七つの命が交錯するその交差点で,食への新たな感謝と,人物との共感を見出すことだろう.

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原題: 食べる―七通の手紙

著者: ドリアン助川

ISBN: 4384023170

© 1996 アリアドネ企画