▼『詭弁論理学』野崎昭弘

詭弁論理学 改版 (中公新書)

 知的な観察によって,人を悩ます強弁・詭弁の正体を見やぶろう.言い負かし術には強くならなくとも,そこから議論を楽しむ「ゆとり」が生まれる.人食いワニのパラドックスや死刑囚のパラドックスなど,論理パズルの名品を題材に,論理のあそびをじっくり味わおう.それは,詭弁術に立ち向かうための頭の訓練にもなる.ギリシャの哲人からルイス・キャロルまでが登場する,愉快な論理学の本.「鏡と左右」問題の付録つき――.

 元前400年以前のギリシアアテナイなどで活躍したソフィストは,知者,教師,雄弁家,詭弁家などの顔で巧みに人心を惑わした.古今,勝手な前提の上に論を積み上げていく詭弁論法は,正当な弁論術より有用性が高い.西欧の論理学体系のなかで位置を占めたアリストテレスAristoteles)『詭弁論駁論』,中国の春秋戦国時代に現れた諸子百家など,彼らは「詭弁」と「強弁」を駆使して人を煙に巻く.

 本書は,版を重ね改版もなされた名著.II部で強弁術,III部で詭弁術を取り上げる.説明は論理的で読みやすい.本書は,広義の詭弁のテクニックを知的・論理的に観察することを強調しており,当然,議論に強くなるための素材提供を行うものではない.相手のいうことを聞かず,自分の主張に確信を持ち,逆らうものは悪魔とレッテルを貼り,自分のいいたいことを繰り返し,おどし,泣き,またはしゃべりまくる.それによって自己の言い分を押し通すのは強弁.

 論点のすりかえ,主張の言いかえ,消去法などを用いて,豊富な実例(論証の厚み)と大学者の学説の引用(権威の利用)でもっともらしく理屈を偽装するのが詭弁である.こうした技法は,論理的な正しさよりも,権威を背景に持ちながら相手を圧倒する術が説得力を持つ.権威同士が対立する場合には,詭弁の巧妙さが勝敗を決定することもある.

 もっとも,権威の同等な者の間では,強弁よりも詭弁のセンスで優位に立てるかどうかが決まる.相手を従わせるためだけの詭弁術では,全学問の方法的基礎となるヘーゲル的な弁証法には到底及ばないが,それを意識する人間であればそもそも,特段に詭弁論理に精通する意義を見出すことはないだろう.

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原題:詭弁論理学

著者:野崎昭弘

ISBN: 9784121804488

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