▼『スタインベック短編集』ジョン・スタインベック

スタインベック短編集 (新潮文庫)

 自然との接触を見うしなった現代世界にあって,スタインベックの提出する人間と自然の端的な結びつきは,その単純さゆえにいっそう神秘的に感じられる.うっとうしい農場生活をおくる人妻の,いっときの感情の昂揚と,その手痛い挫折を描いた名作『菊』をはじめとして,著者の郷里カリフォルニア州サリナス渓谷を舞台に,野生の男女のさまざまな人間模様を追求する13編――.

 リフォルニア州サリナス渓谷に生きる人々の純朴さを描く短篇集.ジョン・スタインベック(John Steinbeck)は,1919年に入学したスタンフォード大学で海洋生物学を専攻した.しかし,入学翌年にはすでに授業を全休し,牧場や道路工事,砂糖工場などで様々な労働を経験している.

 村で尊敬を集める農夫ランドールが変貌したのは,亡き妻に強制されていた肩当てを脱ぎ去ってからのことだった(「肩当て」).天の牧場に住む怠惰な男モルトビーは,荒れ放題の農場を放置して,息子と自由な生活を送った.だが,町の教育委員から衣服を寄付されたモルトビーの心境は変化する(「怠惰」).夜明け間もないキャンプで朝餉(あさげ)を愉しむ男たちの一期一会(「朝めし」).全13篇.

 「成長しようとしてうずく筋肉,単なる必要を乗り越えて何かを作り出そうとうずく精神」という人間観を身に付けたスタインベックは,独自の文学的関心を培う.そこでは,労働問題や貧富の格差といった社会矛盾,生物学者エドワード・F・リケッツ(Edward F. Ricketts)との親交で生れた生物学的生命観の2要素が大きい.素朴な現地人の喜怒哀楽や深層心理が,短篇に生き生きと描き出されている.それはまた,長篇『怒りの葡萄』『エデンの東』にも通じる人間観や認識となって流れている.

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Author: John Steinbeck

ISBN: 4102101039

© 1954 新潮社