心の働きから生命や社会までをダイナミックな制御システムとして捉えようとした先駆的な書.本書の書名そのものが新しい学問領域を創成し,自然科学分野のみならず,社会科学の分野にも多大な影響を与えた.現在でも,人工知能や認知科学,カオスや自己組織化といった非線形現象一般を解析する研究の方法論の基礎となっている――. |
通信と制御を核心に据え,生物と機械における情報処理の問題を包括的に捉える「サイバネティックス」(Cybernetics)は,ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener)によって提唱された.ウィーナーは,自動制御とフィードバックが生体と無機物の両方に共通する装置であると認識していた.この視点から,サイバネティックスは20世紀における新しい機械論として,有機体をモデルにしたアプローチを提供し,自然科学だけでなく社会科学にも大きな影響を与えた.
制御と通信においては,われわれは常に,組織性を低下させ意味を破壊する自然界の傾向と闘っているのである
この思想は,人間をある種の有限自動機械(ファイナイト・オートマトン)と見なす視点や,神経組織におけるシナプスの電気刺激の原理が,超高速計算機による中枢神経系の模倣に寄与する可能性などを包含するものであった.情報処理を「主体」として位置づけ,生命から機械までを分析するこのアプローチにより,生命と無機物の相互作用の理解は,融合を目指して深まることが期待された.
ウィーナーは,1945年にはジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)との共同研究も行ったが,その協力関係は長続きしなかった.ウィーナーのサイバネティックスは,高度な情報処理機能だけでなく,機械の自己増殖といったビジョンを持っている.この考え方は,理学,機械工学,システム工学を統一的に理解するだけでなく,人間自体の主体性にまで議論を広げる革新的な思想であった.
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Title: CYBERNETICS.2nd ed
Author: Norbert Wiener
ISBN: 9784003394816
© 2011 岩波書店