▼『コスモス』カール・セーガン

選書903 COSMOS 上 (朝日選書)

 天文学,惑星科学への夢を語り,今日の宇宙科学ブームのさきがけとなったベストセラーの復刊.セーガン博士が初期から取り組み続けた太陽系惑星の探求がつづられる.探査衛星などから送られる観測データをもとにした,金星,火星,木星土星といった惑星の物語は圧巻.「なぜ地球には生命が存在したのか」を追った宇宙と生命の問題は,最大の関心事として現在の地球外生命の可能性の研究にまで受け継がれていく――.

 界と宇宙を意味するコスモス(Cosmos)は,ギリシア語の「秩序」を意味する語でもあった.古代ギリシアの共同体においては,姦淫を犯した女性に対して,村人全員で投石し,殺害することを掟としていた.コスモスを汚す行為を成員は許さなかったのである.

 圏外生物学(宇宙生物学,天体生物学)の開拓者とされる天文学者カール・セーガン(Carl Sagan)の語り口は,軽妙で含蓄に富む.宗教・哲学・神話――これらと科学はいかに対話し,自然科学の議論の観点がどのように醸成されてきたのか.その収斂はエレガントで気品に満ちている.

 疑いなく,セーガンは科学界の花形だった.多くのメディアに登場し,本書と同名の科学番組ブームを巻き起こし,時代の寵児となった.グローバル思考をすら凌ぐ,いわばコスモス思考に耽ることを奨励する中でも,頻繁に口にしていた言葉が2つある.

天文学は人を謙虚にし,身の程を分からせる学問だ‥‥想像力なくしては私たちはどこにも行けない

 セーガンの理論は,1983年「核の冬」理論が国際関係論にまで波及した.この理論は,核兵器開発の米ソ競合の末に引き起こされる大規模核戦争が,太陽光を長期間遮る砂塵や微粒子を巻き上げ,氷河期を招くというものだった.「地球環境問題」と呼ばれる一連の問題が本格化するのは,1980年代後半である.世界規模の環境問題の是非と「鍵」は,国際政治のキャスティングボートを握る2つの大国の責任であることをセーガンは看破したのである.

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Title: COSMOS

Author: Carl Sagan

ISBN: 9784022630032, 9784022630049

© 2013 朝日新聞出版