| ゴッホ逝いて百年．鮮烈な印象と深い感動を，今なお与えずにおかない"弧高の天才画家"は，どのように悲運の人生を歩み，あの数数の不朽の名作を遺したのか‥‥ゴッホが燃焼し尽くした魂の軌跡を，ドラマチックな構成と繊細かつ簡勁な文体で忠実に再現し，伝記文学の傑作と評された，アーヴィング・ストーン畢生の大作．映画・演劇の原作本ともなった，超ロングセラー初の文庫化――． |
強烈な原色と荒々しい筆触の油彩画を，フィンセント・ファン・ゴッホ（Vincent van Gogh）は850点以上残した．素描画は1,100点に上る．19世紀印象派の写実的傾向に抗う画風は評価の対象になりえず，ゴッホの生涯で売れた絵は《赤い葡萄畑》ただ1点．しかも購入者は友人の姉だった．その短い生涯で彼を打ちのめしたのは，手酷い失恋に宣教師資格の剥奪／破門，病苦と貧困，切磋琢磨を望んだ盟友ポール・ゴーギャン（Eugène Henri Paul Gauguin）との関係破綻と，引きも切らなかった．
しかし，その絵は，20世紀にはフォービスムや表現主義のスタイルに多大な影響を与え，とりわけ鮮烈な暖色と激烈な感情表現は，他の追随を許さぬほどに激越である．しばしば形容される句だが，ゴッホの絵には「波動が宿っている」．それと同様の言葉を，本書でアーヴィング・ストーン（Irving Stone）も述べており，ゴッホの絵に圧倒されるのは洋の東西を問わないことが判るというもの．
なぜ，これほどの天資が時代に即して認められなかったといえば，代表作が生み出されたアルル時代（1888年-1889年5月）以降，独創性の確立とともに精神的不安定をみせ，市立病院に収容された時期に突入したということ，画商である実弟テオドルス・ファン・ゴッホ（Theodorus van Gogh）の管理下に置かれた絵画は，ゴッホの生前には開示する機会に恵まれなかったということがあるだろう．拳銃自殺の直前，1890年7月にゴッホが描いたとされる絵は《荒れ模様の空の麦畑》《カラスのいる麦畑》《ドービニーの庭》の3点．
いずれも虚無的な空気が醸し出された作品であり，テオへの手紙で「悲しみや孤独の極みを表現しようとした」という決意の悲壮さが窺われる．カール・ヤスパース（Karl Theodor Jaspers）による分析に沿えば，ゴッホの狂気と創造性は病跡学のすぐれた題材である．それとともに，展覧会でストーンが衝撃を受けた絵画の訴求力はゴッホの悲劇と共鳴し合い，永遠の不滅性をもたらした．本書は評伝の傑作であり，私小説の装いも多分にまとっているのである．
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Title: LUST FOR LIFE
Author: Irving Stone
ISBN: 4122017238
© 1990 中央公論社
