▼『西部戦線異状なし』エーリッヒ・マリア・レマルク

西部戦線異状なし (新潮文庫)

 1918年夏,焼け爛れた戦場には砲弾,毒ガス,戦車,疾病がたけり狂い,苦熱にうめく兵士が全戦場を埋め尽す中にあって,冷然たる軍司令部の報告はただ「西部戦線異状なし,報告すべき件なし」.自己の体験をもとに第一次大戦における一兵士ボイメルとその戦友たちの愛と死を描いた本書は,人類がはじめて直面した大量殺戮の前で戦慄する様を,リアルに文学にとどめたものとして,世界的反響を呼び起こした――.

 一次世界大戦の西部戦線では,ドイツ軍からイギリス軍に向けて塩素ガスが散布された.この毒ガスの使用は,当時の国際法であるハーグ陸戦条約に違反していた.しかし,戦争は非人間的な大量殺戮という現実を突きつけ,兵士たちは過酷な状況の中で生き抜かなければならなかった.

 1918年,戦場では砲弾,毒ガス,塹壕病といった脅威と,渦巻く混乱の中で戦士たちは命を落としていく.その戦場にいた一兵士ボイメルと彼の仲間たちは,死を前にしても互いに言葉を交わし,人としての交流を築いていた.しかし,ボイメルもまた戦死し,その悲劇は軍司令部によって冷酷に報告された.「西部戦線異状なし,報告すべき件なし」.

 短い一文の中に,数多くの若い命が失われた現実が凝縮されていた.この戦争の悲劇は,後に第二次世界大戦が勃発し,ナチスの統治下で再び繰り広げられることとなる.戦争の中で,若き兵士が厭戦と絶望の中で戦う姿が描かれたのが,禁書とされた本書である.この作品は,19歳の若者が出征し,戦場で3度の戦闘を経験した視点から,戦争の恐ろしさと荒廃を描いている.

 著者エーリッヒ・マリア・レマルク(Erich Maria Remarque)は,ジャーナリストとしての経験から得た文章の構成力を駆使し,紙芝居のように動き回る人間たちが,戦争の中であっけなく命を失っていく様子を簡潔かつ鮮明に伝えた.読者に戦争の残酷さと人間の脆さを骨身に染みて感じさせる筆致である.

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Title: IM WESTEN NICHTS NEUES

Author: Erich Maria Remarque

ISBN: 4102125019

© 1955 新潮社