▼『月の魔力』アーノルド・L.リーバー

月の魔力 普及版

 満月の日は殺人・交通事故が激増する!?マイアミの精神科医である著者は,その噂に興味をもち,研究を続けていくうちに,次々と新事実に遭遇し,ついに月と人間の行動・感情には明らかな関連があることをつきとめた‥‥月はその引力により,満潮・干潮を引き起こす.人間の体内水分は80%.生体にも潮汐作用が起きているのではないか.この「生物学的な潮汐」こそ,人間の行動と感情の鍵であり,このリズムを通じて生命体は宇宙と結びついているという壮大なバイオタイド理論を展開して,科学のフロンティアを切り開いた――.

 球から38万4,400km離れた軌道を回る月は,規則正しく地球を一月に1周のペースで運行する.月・太陽・地球が一線上に並ぶ新月時と,満月時に月の引力の影響は最大となり,月にまつわる数々の伝説を生んだ.科学的にはナンセンスでしかない寓話である.マイアミの精神科医アーノルド・L.リーバー(Arnold L. Lieber)は,精神科病棟の患者の行動が周期的に乱れることに気付いていた.病棟の看護師らも同様であったが,その因果関係に誰も確信を得ていなかった.

 月の移動と人間の行動・感情には明らかな関連があるのではないかと考えたリーバーは,人間の体内80%を占める「水分」が,海の満潮・干潮と同じように月の引力の影響を受けると考えた.これを生物学的な潮汐(バイオタイド)と名づけ,月という天体の活動と人間行動の相関を,科学的に解明しようとしたのである.事件や事故の「発生時刻」で統計を取ったことは,他の研究グループが「死亡時刻」で統計を取って有意性を損なったことよりも,妥当性があった.

 直観のイメージを月,合理性のイメージを太陽と本書で位置付けたように,科学的な厳密性が守られていない箇所が多く,論理の飛躍もある.しかし,誰しも耳にしたことがある「月が人の心を狂わせる」説に,オカルティズムではなく果敢に挑んだ軌跡が好ましい.月齢サイクルと女性の生理現象は,29.531日と完全に一致している.また,妊娠期間の平均日数は265.8日であるという.これを月齢29.531で割ると「9」.妊娠期間の平均の月数である.これは偶然だろうか.

 一方,「現実世界の縁をつま先で渡っているような人」は,月の影響を受けやすいので,自分や人の人生を狂わせる過ちを犯しやすくなると,リーバーは認めている.だからといって,心神耗弱は彼らに認められない.この点は,はっきりと意見表明している.月の移動と,人間の異常行動の因果関係は,明確な帰結を本書は導いていない.しかし,ある天体の動きを一つの「変数」として,科学的に解釈しようとしたプロセスが興味深い書である.

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Title: THE LUNAR EFFECT

Author: Arnold L. Lieber

ISBN: 4487804728

© 1984 東京書籍