▼『舞台の上の権力』ジョルジュ・バランディエ

舞台の上の権力―政治のドラマトゥルギー (ちくま学芸文庫)

 あらゆる社会において,「コード」や「ネットワーク」といった社会構造に還元できない「演劇のパラダイム」が作用している.それは,社会のさまざまなレベルに拡散された権力関係に照明を当て,社会の常態としての政治を浮かび上がらせる.そして,アフリカの古王国で,ルネサンス期のイタリアで,絶対王政下のフランスで,また現代民主制や「社会主義」社会においても共通の,権力の普遍的な相を明るみに出す.王と道化,カーニバル,裁判,選挙,式典,メディアの表象など,さまざまな時代と事象をとおして,政治権力の本質を解明する――.

 権力の介入が果たす「強制力」の結果,行為・発言・処分が謂(ゆわれ)となる.政治権力と祭祀は関連し合い,権力の舞台装置として機能する場を形成してきた.ジョルジュ・バランディエ(Georges Balandier)は,文化人類学クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)とは犬猿の仲だった.レヴィ=ストロースの静態的アプローチでは,動態的であるはずのエスノグラフィーを把握できないという立場である.

 権力のサークル構造を扱い,「政治の宇宙はいかなるものであれ,すべて一つの舞台」とする本書は,アフリカの古王国,ルネサンス期のイタリア,絶対王政下のフランス,現代民主制や「社会主義」社会においての普遍を析出しようとする.バランディエは「無秩序を飼い慣らさない社会は全体主義化する」という.式典やカーニバル,選挙,裁判が歴史への参画をアピールする「擬態」が政治権力の背後にあることを暗に指摘している.

演劇的力という資格は,生まれとか教育から来るのではない.英雄は出現し,行動し,人々の同意を誘発し,権力を受けとるのである.驚異,行動,成功,これが英雄を英雄とする芝居の三法則である.統治者としても彼はこの三つの法則に準拠し,自らの役割に背かず,万人の利益のために〈好運〉を自分の伴侶としていることを示さねばならない

 政治権力の手段にはイデオロギー,規律力,言論,指導者のカリスマや演技力が挙げられる.「演劇支配制」というものが政治の舞台をパロディ化する理屈を,歴史学社会学も援用しながら描写していくテクストは面白い.たとえば職業化された宮廷道化師は,絶対王政の確立に伴い廃止されていく.権力の伴侶の地位にあった道化師が宮廷から追放されたことも,祭祀と権力が反復的に行使された結果(舞台装置)の例証となる.このような演劇支配制可変的な様式が,古今東西の政治体制にわたり動態的に分析されている.

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Title: LE POUVOIR SUR SCENES

Author: Georges Balandier

ISBN: 4480085599

© 2000 筑摩書房