春から初夏には,新緑に心を洗われ,秋には紅葉に目を奪われる.そして色鮮やかな花に癒され,新鮮な空気を与えてもらう.わたしたちは,樹木とともにあり,さまざまな恩恵を受けている.樹木は身近で尊い友人なのだ.しかし,どれだけ彼らのことを知っているだろうか?樹木たちは子供を教育し,コミュニケーションを取り合い,ときに助け合う.その一方で熾烈な縄張り争いをも繰り広げる.学習をし,音に反応し,数をかぞえる.動かないように思えるが,長い時間をかけて移動さえする.ドイツで長年,森林の管理をしてきた著者が,豊かな経験で得た知恵と知識を伝える,樹木への愛に満ちた名著――. |
わたしたちは樹木とともにあり,その存在からさまざまな恩恵を受けている.春から初夏にかけては新緑に心を洗われ,秋には紅葉に目を奪われ,色鮮やかな花に癒され,樹木が提供する新鮮な空気を享受している.また,樹木はフィルターのような役割を果たしており,そのおかげで森の空気は澄んでいる.除去される物質の量は年間で1平方kmあたり7,000tにも達し,これは草原の表面積の100倍に相当する.樹木たちはコミュニケーションを取り合い,ときには助け合う社会を築いている.その一方で樹木たちは熾烈な縄張り争いを繰り広げ,お互いに競い合っている.
およそ40年前,アフリカのサバンナで観察された出来事がある.キリンはサバンナアカシアの葉を食べるが,アカシアにとってはもちろん迷惑な話だ.この大きな草食動物を追い払うために,アカシアはキリンがやってくると数分以内に葉の中に有毒物質を集める.毒に気づいたキリンは別の木に移動する.しかし,隣の木に向かうのではなく,少なくとも数本とばして100メートルぐらい離れたところで食事を再開させたのである
樹木には発声器官がないため,動物のように鳴き声を発して会話することはない.また,樹木は地中に根を張っており,動くことはできない.しかし,彼らは複雑な生存戦略を駆使している.例えば,葉っぱが毛虫に食害されると,特殊な液を分泌して蜂などの天敵を呼び寄せるなど,樹木は独自の防衛メカニズムを持っている.樹木たちは地中に張り巡らされた根っこのネットワークによって情報及び栄養の交換を行っている.自分と同じ種類の木の根かどうか,また他の根との区別をつけ,まるで社会を形成しているかのようだ.
たくさんの木が手を組んで生態系を作り出せば,熱さや寒さに抵抗しやすくなり,たくさんの水を蓄え,空気を適度に湿らせることができる.木にとってはとても棲みやすい環境ができ,長年生長を続けられるようになる.だからこそ,コミュニティを死守しなければならない.木が一本一本自分のことばかりを考えていたら,多くの木が大木になるまでに朽ちていく
ネットワークは,樹木同士がコミュニケーションをとり,お互いに助け合う重要な手段となっている.また,樹木は化学物質や電気信号を使って情報を交換するだけでなく,菌類の助けを借りて森全体に広がるネットワークを形成し,害虫や干ばつの情報を共有している可能性がある.このような樹木たちの知られざる生活について,ドイツで長年森林の管理をしてきた著者が深い見識をもって語っていく.著者は,子供のころから自然に興味を持ち,大学で林業を専攻した.彼が見た官営による林業は,人間本位の営林法であり,本来の樹木が育つべき環境に植えられ,若い樹木が次々と切り倒される光景に衝撃を受けた.
著者は自治体からの契約を受け,個人事業主として森林管理を行う理想的な営林法を提唱している.森の生態に沿った管理を行い,良質な木材の確保のためには生態学的な健康維持が重要であると主張,その理念に賛同した複数のドイツ自治体からオファーを受け,彼の営林術は広く受け入れられているという.本書は「友情」「木の言葉」「社会福祉」など,37のテーマに即して樹木の生態をわかりやすくエッセイ風に綴っており,その深い見識からドイツで70万部を超えるベストセラーを記録し,34カ国に翻訳されるなど国際的にも高い評価を得ている.
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Title: DAS GEHEIME LEBEN DER BÄUME
Author: Peter Wohlleben
ISBN: 978-4-15-209687-6
© 2017 早川書房