▼『予告された殺人の記録』ガブリエル・ガルシア=マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

 町をあげての婚礼騒ぎの翌朝,充分すぎる犯行予告にもかかわらず,なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた幻想とも見紛う殺人事件.凝縮されたその時空間に,差別や妬み,憎悪といった民衆感情,崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ,モザイクの如く入り組んだ過去の重層を,哀しみと滑稽,郷愁をこめて録す,熟成の中篇――.

 際の事件に触発されたガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel José García Márquez)のジャーナリスティックな部分と,マジック・リアリズムの幻想性が融け合う.カリブ海沿岸ボリビアの閉鎖的な冠婚葬祭.町をあげての婚礼は,衆人環視のカーニバルである.

 嫁入り前の妹を傷ものにされていた事実を突き止めた双子の兄弟は,妹の相手ナサールの殺害を宣言していた.ガルシア=マルケスが暮らしたことのある田舎町スクレで1951年に起きた殺人事件.独自の調査でルポを著そうとしたガルシア=マルケスは,母の反対により発表を断念する.狭いコミュニティでの知人や友人の妬みや憎悪は,忌わしい因縁.

 名誉毀損を贖わせる旧来の共同体の関係者ほぼ全員が他界した27年後,事実の奇異と住民感情のとめどない奔出を抱えて本書は刊行された.饒舌に時系列を操作し,熱病にうなされる白昼夢のごとき祝祭感覚,既成事実としての殺人事件を遡及するモザイク的群像の照射――ラテン・アメリカ文学特有の熱気が充満し,陶然たる酩酊感が味わえる佳作.

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Title: CRÓNICA DE UNA MUERTE ANUNCIADA

Author: Gabriel García Márquez

ISBN: 9784102052112

© 1997 新潮社