宗教の長い歴史のなかでも,一神教の誕生は特筆すべき「大事件」であった.なぜ一神教が誕生し,しかも世界中に広まったのか.本書では,ユダヤ教から,キリスト教,イスラム教へとつづく一神教の歴史をとりあげ,それぞれの誕生の背景や変遷をたどり,一神教という信仰の形態から,どのような世界観,人間観が生みだされていったのかを明らかにしていく――. |
ユダヤ教,キリスト教,イスラム教,初期のゾロアスター教などにみられる「排斥の原理」をもつ信仰を,いわゆる一神教と呼んでいる.神から与えられたシオンの丘に,聖なる都市エルサレムを造ったダビデとその子らは,エルサレムを唯一の信仰の場所と定めた.ダビデの血を引くソロモン王は,15万3,600人を7年間使役し,巨大な神殿を造ったという.
神殿を備えた都市を所有したがるのは,エルサレム以外の人々にとっても宿願である.イスラエルの民にとってエルサレム以外に信仰の場所を定めるわけにいかず,この矛盾からオドン・ヴァレ(Odon Vallet)は信仰の「場所」を問う.民族のアイデンティティは,中央集権型の信仰心に規定される部分もまた大きい.
狭義の一神教と考えられる唯一神教は,他の民族の信奉する神々には干渉しない民族的一神教と,他の諸神を否定して,民族の別なく世界にはただ一つの神しかいないと主張する普遍的一神教とがある.全能神ヤーウェの至高性は,キリスト教の三位一体説を否定するイスラム教に,高い純度を持って導入されているように見えるだろう.
「神の再発見」双書に位置する本書は,宗教の多様性を総体的にとらえる上での概説である.古代オリエント史の地理的概念「肥沃な三日月地帯」は,メソポタミア,古代エジプトを擁する地域であった.伝統的に世界最古とされる一神教が,この一帯から創始されたという事実の重み.それは「もっとも古い文化に由来する宗教が現在もなお続いている」ということなのである.
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Title: LE DIEU DU CROISSANT FERTILE
Author: Odon Vallet
ISBN: 9784422214962
© 2000 創元社