▼『コレラの時代の愛』ガブリエル・ガルシア=マルケス

コレラの時代の愛

 夫を不慮の事故で亡くしたばかりの女は72歳.彼女への思いを胸に,独身を守ってきたという男は76歳.ついにその夜,男は女に愛を告げた.困惑と不安,記憶と期待がさまざまに交錯する二人を乗せた蒸気船が,コロンビアの大河をただよい始めた時‥‥内戦が疫病のように猖獗した時代を背景に,悠然とくり広げられる,愛の真実の物語――.

 1年9ヶ月と4日.熱病が猖獗を極める19世紀コロンビアで,麗しいアーモンドの瞳をもつ13歳の美少女フェルミーナを見染めた私生児フロレンティーノ.彼は,通学路の公園のアーモンドの樹の下で,詩集を読みながらフェルミーナを待ち続けた.その一途な愛は,彼女が名家出身の伴侶を得ても褪せなかった.フロレンティーノは彼女が寡婦になるまで待ち続けるのである.

 半世紀以上に及ぶ時の流れは,残酷に両者を通過していた.その間,独身を貫いていたフロレンティーノも,無聊を託つ.何百人という女性と閨をともにした結果,何度も淋病も経験した.それでもフェルミーナを求め続けることを自分に課す「行」は,彼にとっての般若心経に等しい.フェルミーナの美しく繊細な手の指には,長い年月から皺が集まり,かつての肌の面影はない.だがフロレンティーノは,その手をとって愛撫することを厭わなかった.

 いつしか目的が無意味化し,追求性が目的化していく.ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez)は,壮大な叙事詩百年の孤独』で文学的威容を文学史に刻んだ.本作は,以後8年の沈黙を破った長篇となったが,真実の愛と表裏をなす狂気を主題としている.フロレンティーノの母は,死期が近づいた時にこう漏らす.「うちの息子の病気はたった1つ,コレラなのよ」.

 流行性で死亡率が高い熱病は,元来的に地方病だった.フロレンティーノの愛は,爛熟を遥かに超越して妄執となっている.72歳と76歳の男女の機微を中心に,コロンビアの大河マグダレーナを上る悠久の時の流れが,ガルシア=マルケスの強靭な構想力で生み出されている.ところで,フロレンティーノが罹った淋病の回数は6回.19世紀のコレラ大流行と同じ数である.

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Title: EL AMOR EN LOS TIEMPOS DEL COLERA

Author: Gabriel García Márquez

ISBN: 4105090143

© 2006 新潮社