▼『視覚的人間』ベラ・バラージュ

視覚的人間: 映画のドラマツルギー (岩波文庫 青 557-1)

 一九世紀末に発明された映画カメラは瞬く間に無声映画を創り出した.本書はその無声映画が絶頂への登路にさしかかった時に,クローズアップ,モンタージュを中心にして理論的・体系的に整備した古典的名著.映画という新しい芸術の果すであろう社会的・文化史的役割を語る映画人バラージュの情熱は,創成期の人間固有のものである――.

 0世紀初頭のハンガリーを代表する芸術家,知識人と交わり,歌劇『青ひげ公の城』の台本を手掛けたバラージュ・ベーラ(Balázs Béla).ハンガリー共産政権に加入後,亡命中に本書は書かれた.ウィーンでの映画批評家としての体験を元に,サイレント映画の芸術性を論じている.

 無声映画のもつ原理・社会性・発展可能性が,既存の演劇・音楽・文学との異質性から考察され,クローズアップ,モンタージュによる映画の魅力が詩的美学になるという帰納がここにある.新しい芸術運動のグループに所属してルカーチ・ジェルジ(Szegedi Lukács György Bernát),バルトーク・ベーラ(Bartók Béla Viktor János)と芸術を論じたバラージュは,映画が最初の国際言語となり,「可視的な人間像」を具現すると予見している.

 生き生きと躍動する俳優の表情の微細さとダイナミズム,自然風景のリアリズムが,有機的な発展性を具えた映画理論を構成する.人間性写像とさえいえる啓示性を勃興する新芸術“映画”に見出そうとしたバラージュの芸術至上主義は,非常に楽観的で前向きなものだった.

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Title: DER SICHTBARE MENSCH - EINE FILM DORAMATURGIC

Author: Balázs Béla

ISBN: 4003355717

© 1986 岩波書店