移りかわる日本の美しい四季折々にふれ,ある日は遠く万葉の時代を回顧し,ある日は楚々とした野辺の草木に想いをはせ,ある日は私達が日常生活の中で何げなく使っている言葉の真意と由来を平易明快に説明する‥‥著者のユニークな発想と深い学識によって捉えられ選ばれた日本語の一語一語が,所を得てみずみずしく躍動し,広い視野と豊かな教養をはぐくむ異色歳時記である――. |
俳諧とは,季節感や日常の情景を繊細に描写する日本の詩形であり,その中でも季語を用いた作品は特に四季感を重視する.「歳時記」は,俳句や俳諧における季題を四季に応じて分類し,語を季別,時候,天文,人事,宗教,動植物などの部門別に分類して解説を加えた手引書である.
1965年に「東京新聞」「中部日本新聞」に連載され,400字詰め原稿用紙1枚に1日1題が収められた.その簡潔さは,誰もが日常の中に季節の移ろいを感じることを助け,また,先入観からくる誤解を解きほぐす小さな「発見」が散りばめられている.言葉の解釈や古い意味,時には冗句が含蓄ある平明さで解かれている.
例えば,「梅雨」という季語について,一般的な理解とは異なる解釈が提示されている.これは旧暦の5月に降る雨を指す言葉で,「五月雨」と同じ雨をさすが,その語感は大きく異なる.また「梅雨晴れ」も,梅雨の間の晴れ間とされがちであるが,実際には梅雨明け後の晴天を指すとされている.
連歌や俳諧の式目書,作法書に配置された季語の分類配列や,ことばの背後に広がる豊かな感性を汲み取ることで,詩文の理解が一層深まり,詩文の深みを一層引き立てるだろう.「歳時記」は,俳諧の季節感を伝える小さな宝であり,日常の中に季節の息吹を感じる手助けとなるだけでなく,言葉の奥深さを探求する旅へと人を誘う.
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原題: ことばの歳時記
著者: 金田一春彦
ISBN: 9784101215013
© 1973 新潮社