▼『栽培植物と農耕の起源』中尾佐助

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

 野生時代のものとは全く違った存在となってしまった今日のムギやイネは,私たちの祖先の手で何千年もかかって改良に改良を重ねられてきた.イネをはじめ,ムギ,イモ,バナナ,雑穀,マメ,茶など人間生活と切り離すことのできない栽培植物の起源を追求して,アジアの奥地やヒマラヤ地域,南太平洋の全域を探査した貴重な記録――.

 書で,著者は世界における四大農耕文化複合の存在を明らかにしている.1)根栽農耕文化は,東南アジアの熱帯雨林地帯にはじまり,株分けや挿し木などで栽培されるイモ類,バナナ,サトウキビなど.2)サバンナ農耕文化は,アフリカ(ニジェール川付近やエチオピア)からインドにかけての乾燥地帯で,豆類,ウリやナス,キュウリなど.

 3)地中海農耕文化は,農業に適する植物が豊富だった中東が発祥.オオムギ,エンドウ,ホウレンソウなど.4)新大陸農耕文化は,旧大陸の根栽農耕文化とサバンナ農耕文化に対応する文化が独立発生させ,特筆されるのはトウモロコシとカボチャ類.

 各大陸に特徴的な栽培植物群が存在しており,その複合が人類文化を農耕段階から高度文明に導いた,と論旨が一貫している.栽培種は,野生種とは違って,何千年もかけて改良を重ねた文化財であり,農耕文化複合の基本と考えることができる.そのコンテクストから,農業の歴史は栽培植物の中に書きこまれている,とする本書のスタンスは,示唆的というべきだろう.  

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原題: 栽培植物と農耕の起源

著者: 中尾佐助

ISBN: 4004161037

© 1966 岩波書店